ある日、平凡な我が家の朝。パンの焼ける匂いがキッチンに広がる中、5歳の息子が唐突に口を開いた。
「パパ、なんで雲ってあんなにふわふわしてるのに、寝たら落ちるの?」
私はトースターに向かっていた手を止めた。ちょっと何を言ってるのか分からなかった。
「え?寝たら落ちる?どういうこと?」
彼は私の顔をまっすぐ見つめて、ちょっと困ったように言った。
「だってさ、ふわふわしてて気持ちよさそうじゃん?雲の上で寝たら、きっとふかふかで気持ちいいと思うんだよ。でも、寝たら下に落ちちゃうんでしょ?なんで?」
……なるほど。彼の頭の中では、雲は空に浮かんでいる巨大なふとんのような存在らしい。でも、そこで寝たら体が沈んで、空から落っこちちゃうのではという不安を抱いているわけだ。
「雲ってね、水でできてるんだよ。水がすっごく小さな粒になって、集まってできてるの。だから、見た目はふわふわだけど、実は乗れないの」
私はそう説明してみた。科学的には間違っていない、はず。
彼は一瞬うーんと唸った後、ふと思いついたように言った。
「じゃあ、お風呂の泡も雲?」
私は笑ってしまった。たしかに、白くて、ふわふわしてて、触ったら消えちゃう泡。雲にそっくりと言えばそっくりだ。
「お風呂の泡と雲は、ちょっと似てるけど違うんだよ。泡はせっけんの泡で、雲は水の粒が空に集まったもの。でも、見た目は似てるよね」
「じゃあさ、泡の雲って作れないの?」
「……うーん、それは、作れるかもしれないけど、空には浮かばないかな」
「そっかー。じゃあさ、飛行機って雲の上飛ぶよね?じゃあ、飛行機の上で寝たら落ちない?」
「それは落ちない!飛行機はしっかりした乗り物だから、寝ても大丈夫」
「でも、外は寒いでしょ?じゃあ、飛行機の中で雲の布団があったらいいね」
この発想の飛躍力。子どもって本当に自由だ。
私たち大人は、いつの間にか「現実」を知ってしまって、見えない壁を自分の中に作ってしまっている。でも子どもはその壁を軽々と越えてくる。まるで飛行機よりも高く飛んでいるみたいに。
「パパ、雲の中で寝る夢、見たいな」
そう言って、パンにいちごジャムをぬりながらニコニコしている息子を見て、なんだか朝から心がぽかぽかした。
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今日のひとこと:
子どもって、大人が見落としがちなことを、純粋な目で見つけてくる。何気ない一言が、大人にとっての新しい気づきになることもある。雲をただの気象現象としてしか見ていなかった私に、「夢の素材」としての雲を思い出させてくれた5歳児に感謝したい。
さて、今日も空を見上げてみよう。もしかしたら、ふわふわの布団がひとつ、浮かんでいるかもしれない。
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